Tokyo Clubhouse

Tokyo Clubhouse

 

― 会員制クラブハウスのような都心の住居

東京都心、新宿御苑近くの居住用マンションのリノベーション計画。コンセプトは「会員制のクラブハウスのような家」である。平面を大きなワンルーム空間として計画し、天井の凹凸のみで空間を仕切っている。

家主が居ても居なくても友人・知人が家に遊びに来て集まっているという、オーナーのライフスタイルから着想を受け、半プライベート/半パブリックであり、まさに会員制のクラブハウスのような住居形式を、具体的な建築のかたちで実現した。

東京都心における一人暮らしの男性の新たなライフスタイルの提案である。そして同時に、この家に暮らす猫たちからすると(オーナーは、2匹の猫と暮らしている)、遮る壁のない大きなワンルーム空間は、どこまでも視線の開けた開放的で豊かな住空間となる。

まず最初に、新宿御苑がどのような場所かについて触れておきたい。

新宿御苑は、明治39年(1906年)に設立した東京都新宿の都心に位置する歴史ある国民公園であり、広さ58.3ha周囲3.5kmの広大な庭園である。また、入場には数ドルの入場料がかかる。入場が有料であることも東京では珍しく、特別な場所として一般的にも認識されている稀有な公園である。つまり、新宿御苑という場所は、完全なパブリック空間ではなく、誰でも利用できる公園でありながらも、入場が有料であることによって、構造としても体験としても、ある種のプライベート性を帯びている場所なのである。

一方で、新宿御苑は、特に日本のpopカルチャーを愛する人々にとって、他にはない特別な意味を持っていることにも触れないわけにはいかないだろう。

新宿御苑は、アニメーション映画監督新海誠による46分間の中編映画作品“言の葉の庭”の舞台だからだ。梅雨の時期の新宿御苑で、靴職人を目指す高校生・タカオと謎めいた年上の女性・ユキノが出会うことから物語は始まる。タカオとユキノが出会ったのは、雨が降る日の午前で、新宿御苑に点在する東屋で雨宿りをした際のことである。二人は雨の日の東屋での再会を繰り返しながら仲を深めていく。そして、物語の舞台になった東屋は実在する。

ここでいう“東屋”とは、屋根のかかった木造の小さな休憩所である。そして雨の降る日の東屋は、周囲のランドスケープと連続しながらもどこかそこだけ空間が切り離され独立したセカイを保っているような、安心感を感じさせる居場所である。
新宿御苑は、東京という都市において、半プライベート/半パブリックな休憩所であり、そして同時に、東屋は、新宿御苑という公園において、半プライベート/半パブリックな休憩所なのだ。

次に、本プロジェクトの核心である、施主のユニークで魅力的なライフスタイルについて触れていきたい。施主は、30代の一人暮らしの男性(仮に“K君”と呼ぶ)で、2匹の愛猫と暮らしている会社員である。

K君は、週のほとんどを、友達と一緒に過ごす。具体的には、たくさんの友人たちが、代わる代わる、K君の家を訪れる。彼の友人たちは、K君の家で、思い思いの時間を過ごし、それぞれの家に帰っていく。驚いたのは、家主であるK君が居ても居なくても、K君の家には彼の友人たちが訪れ自由に過ごしていることだ。K君のご友人の方々にとって、K君の家は、第2・第3のリビングルームのような、心地よい自分たちの居場所なのかもしれない。K君のご友人の方々には、それぞれに仕事があり、家庭がある方もいて、それぞれの生活がある。そんな“それぞれの生活の一部”として、K君の家が存在しているように見えた。

 

私たちの目には、K君のライフスタイルにおける“家”のあり方が、東京における“新宿御苑”のあり方、同時に新宿御苑における“東屋”のあり方に、重なって見えた。

K君は、東京都心に本社を置く企業の会社員で、週に何度か出社する比較的フレキシブルなワークスタイルではあるものの、特別な自由人ではない。そんなK君の愛するライフスタイルだからこそ、これからの“東京”を代表する1つの生活様式に成り得る、と私たちは考え、K君のライフスタイルそのものを祝福するような建築を目指した。

東京の都心の半プライベート/半パブリックな住居のあり方。それはまるで「“会員制のクラブハウス”のような都心の住居」であり、「現代、そして未来の“東京”の生活様式の1つを象徴する家」である。
都市と物語と個人、三者の文化的交差点に、本建築『Tokyo Clubhouse』は生まれた。

K君の購入した居住用マンションの1室は、新宿御苑からほど近いマンションの上層階で、2住戸を連結させて1住戸にした形式の、93㎡ほどの広さがある、元々オーナー住戸の1室だった。私たちは、マンションの1室全体を、大胆に1つの大きなワンルームとして計画した。そして、「天井の凹凸」を綿密に設計し、空間をプライベート性の高い居場所からパブリック性の高い居場所へと、柔らかく仕切りながら紡いでいく空間構成となるよう計画した。

最小の天井高さは、1320mmである。低く下げた天井は、間仕切り壁の役割を果たす。加えて、1320mmの高さの天井は、ソファなどの家具や観葉植物を置いても心地よく収まる高さである。天井の仕上げは、木毛セメント板の塗装とし、原則910mmグリッドとして、材料の歩留まりを改善している。

床の仕上げは、よりパブリック性の高い居場所をレンガタイルのヘリンボーン貼りとし、よりプライベート性の高い居場所を古材無垢板貼りとして、貼り分けた。天井の凹凸と床の仕上げの切り替えの相互干渉によって、「壁のない空間」の中に、居場所のグラデーションが生まれるよう計画した。間仕切り壁のない空間のため、家のどこにいても、思い思いに過ごす友人たちの気配が感じられる。

空間全体の彩りのアクセントになるよう、直径1800mmのスチール板に亜鉛メッキを施した、6人〜8人掛けの、鈍く玉虫色に光る円形テーブルをデザインし制作した。キッチンは、既存のキッチンをそのまま残し、表面のみ塗替え塗装を行った。キッチンの曲面壁には、粒度を荒くした、掃き付けの左官を施した。また、2部屋のそれぞれを隔てていた間仕切壁を貫通するかたちで、ガラスで制作したシューボックスを玄関脇に計画した。K君のスニーカーコレクションが、空間に色を添える。

キッチンのゴツゴツした掃き付け左官の曲面壁、ガラスのシューボックスの扉、レンガタイルの床、階段を裏返したような凹凸のある木毛セメント板の天井、特徴のある各素材が混ざり合い、来客用玄関(2つある玄関の内の1つ)のアプローチを彩る。

加えて、壁のないワンルーム空間は、K君と共に暮らす家族である2匹の猫たちから見ると、走り出すのに、遮るものは何もない、見晴らしの良い居住空間となる。2匹の愛猫と暮らしていることも、忘れてはならない、K君のライフスタイルである。

最後に、本建築『Tokyo Clubhouse』は、現在の日本における「マンションリノベーション」の現状に対して、一石を投じる思いからも設計を行ったことを記したいと思います。
「◯LDK」の数字を増やす目的で、実際には「不要な壁」を無理に立てるような設計が、数多く見られるように感じています。「◯LDK」の数字が増えると、一見聞こえが良いとは思うのですが、実は合理性のない場合も多いのではないか…と、私たちは考えています。極端にワンルームを推奨するという意味ではもちろんないのですが、「◯LDK」という数字を増やすだけに立てられる「不要な壁」は、日本が抱える根本的な問題を象徴しているようにも感じています。
私たち Tan Yamanouchi & AWGL では、建築が、建築家の「作品」であると同時に不動産としての「資産」であることを理解した上で、経済合理的な勝算込みで、建築のご提案をすることを目指しています。建築家に依頼すること自体、敷居が高いかもしれませんが、お気軽にまずはご相談のメールをいただけますと幸いです。

Tokyo Clubhouse

所在地 / 東京都新宿区新宿
種別 / 居住用マンション改修

建築設計
Tan Yamanouchi & AWGL
/ 山之内淡

施工
Clover
/ 行方稜、細田雅晴、松尾優志
竣工写真
/Toshiyuki Udagawa

規模 / 床面積 92.84 ㎡
(居住用マンションの専有面積)

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