Tokyo Clubhouse

Tokyo Clubhouse

東京都心、新宿御苑からほど近い、居住用マンションの1室のリノベーション計画である。施主は、30代の一人暮らしの男性(仮に“K君”と呼ぶ)で、2匹の愛猫と暮らしている会社員。
私たちが着目したのは、K君のライフスタイルだった。K君のライフスタイルは、一見ユニークではあるが、本質的に、“東京”を象徴する1つの生活様式であると思えたからだ。
K君は、週のほとんどを、友達と一緒に過ごす。具体的には、たくさんの友人たちが、代わる代わる、K君の家を訪れる。彼の友人たちは、K君の家で、思い思いの時間を過ごし、それぞれの家に帰っていく。K君の家を訪れることに対して、とても敷居の低い様子だった。
K君のご友人の方々にとって、K君の家は、第2・第3のリビングルームのような、心地よい自分たちの居場所なのかもしれない。K君のご友人の方々には、それぞれに仕事があり、家庭がある方もいて、それぞれの生活がある。そんな“それぞれの生活の一部”として、K君の家が存在しているように見えた。
その様子はまるで、「会員制のクラブハウスのようだ」と私たちは思った。本建築のタイトル『Tokyo Clubhouse』の由来である。
 

K君の、絶えず自身の家を訪ねてくる友達と過ごすライフスタイルは、東京全体を1つの家と捉え、友人たちを大きな1つの家族と見なしているようにも感じられた。
それは、現在の、そして、未来の“東京”において、本質的な生活様式の1つなのではないか?と、私たちは考えた。そして、K君のライフスタイルを、両手を広げて歓迎するような、前向きな家をつくろう、と心に決めた。
K君の購入した居住用マンションの1室は、新宿御苑からほど近いマンションの上層階で、2住戸を連結させて1住戸にした形式の、93㎡ほどの広さがある、元々オーナー住戸の1室だった。私たちは、マンションの1室全体を、大胆に1つの大きなワンルームとして計画した。そして、「天井の凹凸」を綿密に設計し、空間をプライベート性の高い居場所からパブリック性の高い居場所へと、柔らかく仕切りながら紡いでいく空間構成となるよう計画した。
 

最小の天井高さは、1320mmである。低く下げた天井は、間仕切り壁の役割を果たす。加えて、1320mmの高さの天井は、ソファなどの家具や観葉植物を置いても心地よく収まる高さである。天井の仕上げは、木毛セメント板の塗装とし、原則900mmグリッドとして、材料の歩留まりを改善している。
床の仕上げは、よりパブリック性の高い居場所をレンガタイルのヘリンボーン貼りとし、よりプライベート性の高い居場所を古材無垢板貼りとして、貼り分けた。天井の凹凸と床の仕上げの切り替えの相互干渉によって、「壁のない空間」の中に、居場所のグラデーションが生まれるよう計画した。間仕切り壁のない空間のため、家のどこにいても、思い思いに過ごす友人たちの気配が感じられる。
まさに『Tokyo Clubhouse』というタイトルに相応しい、敷居の低い会員制のクラブハウスのような家であり、友人たちの“それぞれの生活の一部”になるような都市の中の居場所であり、「現代、そして未来の“東京”の生活様式の1つを象徴する家」である。
 

加えて、壁のないワンルーム空間は、K君と共に暮らす家族である2匹の猫たちから見ると、走り出すのに、遮るものは何もない、見晴らしの良い居住空間となる。2匹の愛猫と暮らしていることも、忘れてはならない、K君のライフスタイルである。
家具が好きなK君のために、設計者である我々から家具のセレクトはせず、K君に任せることを前提とした。1点だけ、空間全体の彩りのアクセントになるよう、直径1800mmのスチール板に亜鉛メッキを施した、6人〜8人掛けの、鈍く玉虫色に光る円形テーブルをデザインし制作した。キッチンは、既存のキッチンをそのまま残し、表面のみ塗替え塗装を行った。キッチンの曲面壁には、粒度を荒くした、掃き付けの左官を施した。また、2部屋のそれぞれを隔てていた間仕切壁を貫通するかたちで、ガラスで制作したシューボックスを玄関脇に計画した。K君のスニーカーコレクションが、空間に色を添える。
 

キッチンのゴツゴツした掃き付け左官の曲面壁、ガラスのシューボックスの扉、レンガタイルの床、階段を裏返したような凹凸のある木毛セメント板の天井、特徴のある各素材が混ざり合い、来客用玄関(2つある玄関の内の1つ)のアプローチを彩る。
K君は、東京都心に本社を置く企業の会社員で、週に何度か出社する比較的フレキシブルなワークスタイルではあるものの、特別な自由人ではない。そんなK君の愛するライフスタイルだからこそ、これからの“東京”を代表する1つの生活様式に成り得る、と私たちは考え、K君のライフスタイルそのものを祝福するような建築を目指した。
 
最後に、本建築『Tokyo Clubhouse』は、現在の日本における「マンションリノベーション」の現状に対して、一石を投じる思いからも設計を行ったことを記したいと思います。
「◯LDK」の数字を増やす目的で、実際には「不要な壁」を無理に立てるような設計が、数多く見られるように感じています。「◯LDK」の数字が増えると、一見聞こえが良いとは思うのですが、実は合理性のない場合も多いのではないか…と、私たちは考えています。極端にワンルームを推奨するという意味ではもちろんないのですが、「◯LDK」という数字を増やすだけに立てられる「不要な壁」は、日本が抱える根本的な問題を象徴しているようにも感じています。
私たち Tan Yamanouchi & AWGL では、建築が、建築家の「作品」であると同時に不動産としての「資産」であることを理解した上で、経済合理的な勝算込みで、建築のご提案をすることを目指しています。建築家に依頼すること自体、敷居が高いかもしれませんが、お気軽にまずはご相談のメールをいただけますと幸いです。
 
Tokyo Clubhouse

所在地 / 東京都新宿区新宿
用途 / 専用住宅(居住用マンションのリノベーション)

建築設計
Tan Yamanouchi & AWGL
 / 山之内淡

施工
Clover
 / 行方稜、細田雅晴、松尾優志
竣工写真
HEIGHZ
 / 宇田川俊之

規模 / 床面積 92.84 ㎡
(居住用マンションの専有面積)
 























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